喉不調の聖乃さん『舞姫』配信感想
花組『舞姫』をライブ配信で見ました。
初演とまた印象の違った、心に沁みる感動作品になっていました。

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聖乃あすかさんについて

喉の不調

始まった時は、聖乃さんの喉の調子が悪そうで、 かなり苦しそうな歌い方をされていて、セリフの声もかすれていて心配なところからスタートしました。

ストーリーが進むにつれて、セリフの声は安定して、歌は時々歌いづらそうではありましたが、その分感情の乗った歌を聞かせてくれました。最後まで気迫がこもっていて、歌での不調はそんなに気にならなくなりました。

既に観劇した方からは、沢山の歌をとても上手に歌われていたと聞いていたので、ご本人もライブ配信の日喉が不調になってしまって、思うように歌えなかったことは、悔しかっただろうと思います。

本日のマチネも喉の調子が悪かったようなので、本日の2公演よく頑張られたと思います。

カーテンコールでも、喉については一切お話しされませんでしたが、「お客様が温かくて、私は今日皆様の愛、共演者の方々の愛ををすごく感じた一日でした」と仰っていました。聖乃さんの声のために出演者が励ましたり、ケアのお手伝いなど全力でされたのでしょう。

ライブ配信があって、映像も残る一番大切な日と喉の不調が重なってしまったのは不運としか言えませんが、聖乃さんの今後に本日の経験は必ず役に立つと思います。でも、どのスターさんも喉の不調を乗り越えていらっしゃいます。

本日が千秋楽で、次の花組の集合日までしばらく期間があるので、喉のケアをして喉の調子が回復され、7月の本公演では素晴らしい歌を存分に聞かせてくださいますように。

将来が楽しみな安定の花組3番手

花組3番手としての聖乃さん抜群の安定感、成長を感じました。

2021年1~2月『PRINCE OF ROSES-王冠に導かれし男-』でバウホール初主演。その時に比べてなんと頼もしくなられたことでしょうか。
やはり昨年春の『冬霞の巴里』での、骨太男役への脱皮が大きかったかと思います。

明治時代の日本陸軍のエリート官僚なので、キリリとした眉と日本の軍人ぽい髪型が、端正で凛々しく品のあるお顔立ちに似合っていました。

そして真っ白い軍服のなんと似合うことよ!匂い立つような凛々しさでした。

聖乃さん演じる豊太郎は、日本軍配属のドイツに国費留学しているエリートで、現地の踊り子のエリスと恋仲になり、「エリスへの恋」か祖国日本(日本の発展のために貢献)」か、どちらかの究極の選択を迫られ、二つの間で揺れ動く心を、切々と力みなく演じられていました。お芝居の表現力が、とても深まって、今回の作品でさらに一段ランクアップされたように思いました。

この作品に出演している、帆純まひろさん侑輝大弥さんたちの芝居力も、またもう一つの『二人だけの戦場』に出演している柚香光さん星風まどかさん永久輝せあさん希波らいとさんの芝居力もとても深まっていました。

今年のお正月公演の『うたかたの恋』の稽古期間に、演出の小柳先生が演技の指導を基礎から行われたと話題になっていましたが、花組生のお芝居の深まりには、その学びが影響しているのでしょうか?

『ビジュアルの花組』、『ダンスの花組』に芝居力が強化されたら、鬼に金棒ですね。

エリスの脚本を変更

『舞姫』の配役発表があった時に、ヒロインが美羽愛さんと発表されて、正直に言うと「エリスが美羽愛ちゃんで大丈夫?」と思いました。

それは初演を見て、エリスは卓越した繊細な演技力を必要とする役だと思っていたからです。

2007年の初演では、エリス憑依型役者野々すみ花さんが演じていらっしゃいました。当時研3でしたが、野々さんは儚くて今にも壊れていきそうなエリスを繊細に巧みに演じられていました。演技力が突出されていました。

退団後も、まず蜷川幸雄演出による舞台「祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹〜」で女優としてデビューされたように、芝居巧者の娘役さんです。そして野々さんに続く芝居巧者の娘役というと、咲妃みゆさんだと思います。現在の花組では星空美咲さんでしょうか。

そんな私の勝手な心配を吹き飛ばすように、植田先生は美羽さんの持ち味が活かされるエリスに脚本を変更されていました。

植田景子先生の変更点

『歌劇5月号』の「てい談」で植田先生は、下記のように話されていました。

「エリスは、今回脚本上の変更点があり、初演の貧しいが故にセンシティブなエリスから、原作に近づけて一途にまっすぐに豊太郎のことを思っている…という風にしています」

初演野々すみ花さんの演じたエリスは、繊細でもともと心の病に罹患していて、豊太郎と出会った頃は安定していましたが、ラストは発狂してしまったエリスを白眉な演技力で演じられていました。そして妊娠はエリスの妄想でした。

今回美羽愛さんが演じたエリスは、一途にまっすぐに豊太郎のことを思っていて、豊太郎の親友の相沢から、別れるための手切れ金を渡され、衝撃を受けて流産し、パラノイア(統合失調症)を発症します。

描かれ方が全く違うので、比べることはできませんが、初演のエリスに対しての方が、より深く感情移入できたように感じました。またそういう感想をSNSでも拝見しました。

エリスの美羽愛さん

豊太郎のことを一途に思っているエリスを、少女のように無邪気に天真爛漫に演じられていました。美羽さんは終始笑顔だった印象が強いです。

そして愛する人に裏切られる予感におびえたり、焦燥したり、後半はせつないシーンも多かったのですが、なぜか哀しい表情の印象があまり残っていません。

歌が進化し続けている美羽さん
『元禄バロックロック』の新人公演(宝塚大劇場2021年11月30日)では、ヒロインのキラ役を演じて、歌の声も出ていなくて、歌が得意では無い印象を持ちました。

ところが、昨年11月のバウワークショップ『殉情』のヒロイン春琴では、歌の上達をとても感じました。今回は、歌の量も増えて、さらに上達されていました。1年半でこれだけ上達するために、努力されたのだろうと思います。さらに上達する余地はまだまだありそうです。

美羽さん色を感じたエリス
『殉情』のヒロイン春琴は、「帆純まひろ・朝葉ことの」バージョンは原作に近い耽美的な胸が痛くなるような世界観で描かれていました。一方、「一之瀬航季・美羽愛」バージョンは、笑顔がかわいい純愛カップルで、悲壮感があまりなく、見守りながら応援したくなる世界観でした。

美羽さんの春琴が、朝葉ことのさんの春琴と違っていたのと同じくらい、今回のエリスは、初演の野々すみ花さんと印象が違っていました。どちらも演出の先生が「それを良し」として舞台を完成されているので、それで正解なのだと思います。

でも勝手に見比べてみる私には、このあたりがとても新鮮に感じられました。

初演の時に、「愛音さんと野々さんをイメージして脚本を書かれた」と過去の書物にありました。今回も、植田先生はそれぞれの役者の個性や魅力に合わせて柔軟に脚本を変更されたのでしょう。座付きの演出家だからこそできる、宝塚の良さだと思います。

景子先生の宝塚マジック

原作では、豊太郎は恋人を妊娠させた後に捨てて日本に帰ってしまう最低野郎として描かれています。森鴎外は「舞姫」で「近代的自我の挫折」を伝えようとしているとか。

でも宝塚では、「恋」か「祖国日本」かとどちらかの選択を迫られ、豊太郎が悩み苦しんでいるうちに、周囲の人たちによって、物事が進んでいき、豊太郎にとっては、ドイツでの若き日々は、実らなかったほろ苦い恋の思い出と刻まれているようなイメージでした。

原作にはない、後ろ盾がなく苦しむ私費留学生が極貧の中で死んでいくことで、豊太郎に残留の苦労が暗示されていました。

そして将来を案じた親友が独断でエリスに手切れ金を渡しに行ったことで、エリスは流産し精神が崩壊してしまいます。親友が憎まれ役をかっていました。

豊太郎は、憲法の制定の為にどうしても力が必要だと説得され、祖国を思って帰国を決意し、ストーリーは日本国憲法発布で終わります。

豊太郎が帰国前にエリスと面会するシーンでは、エリスは正気を失っても豊太郎からもらった扇を大切にしていて、豊太郎がエリスに舞扇の返し方を教えて一緒に舞ります。その扇は豊太郎のエリスへの初めてのプレゼントで、ふたりの幸せな時期の冒頭に舞扇のシーンがありました。そのためラストのふたりの舞扇の面会シーンは涙ポイントとなります。

このあたりの植田先生の設定が、宝塚らしくお上手だと思いました。

エリスなど女性側に視点を当てると、「とんでもないわ」となってしまうのでしょうが、宝塚は男役に視点をあてて観る所なので、宝塚マジックによって、『舞姫』は宝塚の名作になるのだと思います。

印象に残った役の方々

演技が光った帆純まひろさん(99期)

相沢謙吉(東大時代からの豊太郎の親友で天方伯爵の秘書)
親友の豊太郎のために、「憎まれ役」として、エリスに手切れ金を渡しに行きます。
それ以前にも、豊太郎に仕事を紹介したり、友を思い、日本の国を思い、誠心誠意尽くします。
その誠実な迫力ある演技に説得力があって、帆純さんご自身の誠実な持ち味がいかされていました。歌唱力もさらに向上されていて、心に響く歌を聞かせてくださいました。

印象的だった侑輝大弥さん(102期)

馳芳次郎(私費留学生の日本人画家)を、侑輝大弥さんがワイルドにのびやかに、表情豊かに演じていました。

貧乏画家で生活に困窮し、病床に伏し、やつれ果てていき、ミリィの献身的な介抱もむなしく、末期はドイツ語がわからなくなり、「粥を食べたい」と日本を懐かしみながら、命が絶えます。

そのやつれ果てたゲッソリさしたメイクとリアリティのある迫真の演技が素晴らしかったです。侑輝さんも芝居心のある演技派、そして歌も上達されていて、新公学年を卒業してからの進化に驚かされました。

その他の役の方

芳次郎(侑輝)の恋人で絵のモデルのミリィ咲乃深音さん(101期)。歌手として活躍されていますが、繊細な演技も本当にお上手。一緒に暮らしながら、愛し合っている相手が死ぬ直前にドイツ語がわからなくなって、言葉が通じなくなるなんて!その悲しみをリアルにお芝居で見せてくださいました。

衛生学を学ぶ軍医、岩井直孝役の泉まいらさんは、以前は「歌の人」だと思っていましたが、お芝居もとっても達者。人は良いが小心者の国費留学生を持ち味をいかして好演されていました。

天方伯役の一樹千尋さんは、次期総理大臣と目される大物の風格があって、説得力は流石。時に醸し出される軽妙さも素敵です。

エリスの母親役の万里柚美さんは、彫りの深いお顔立ちがドイツ人らしく、初演とは違った意志の強い母親を好演されていました。

豊太郎の師&よき理解者の法学博士のドクトル・ヴィーゼ役の和海しょうさん。豊太郎の理解者として良い雰囲気を醸し出されていました.和海さんがはもると歌が途端に素晴らしく聞こえます。流石の歌唱力。そして明治天皇の声も威厳があってすばらしかったです。

ヴィーゼの娘のマチルダの二葉ゆゆさんも可愛かったです。

ホットワイン売りとラストに登場する留学希望の青木英嗣の美空真瑠さん(105期)。美声を轟かせた、人懐っこいワイン売りが魅力的でした。まっすぐで一途な瞳で留学の話をする青木は、冒頭の豊太郎と重なりました。初演ではこの2役を彩城レアさんが演じられていました。

豊太郎の妹・清の詩希すみれさん(103期)。日本髪がお似合いで、エリスと清のデュエットは、お見事でした。

おわりに

甲斐先生の心にしみる楽曲の数々も素晴らしかったです。歌唱指導は山口正義先生でした。

カーテンコールの最後は、みんなが笑顔で「舞姫、バンザイ!」でした。客席の声出しも解禁されたようで、どんどんコロナ禍前に戻ってきているのを嬉しく思いました。

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