女性演出家への期待
こんにちは、くららです。

星組バウ公演『龍の宮物語』を観劇して、丁寧に脚本が書かれ、演者の使い方が実に適材適所で、デビュー作と言いながらも、演出家・指田珠子先生のレベルの高さを感じました。

それにくらべて、宝塚大劇場で上演中の宙組『エル ハポンイスパニアのサムライ』の脚本は、今一つだと思います。
大劇場は様々な制約があって小劇場と比べて難しいとは思いますが、脚本の内容が突き抜けすぎていて、ただただ宙組生の頑張りで楽しめる作品になっています。
年末年始の演目として、「“ヒロイックで快活な娯楽作品”ということで、こういうものもありかな」と楽しもうと努力していますが、やはり「作・演出/大野 拓史」の独りよがりなつくり方に問題があることは否めません。

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「宝塚プルミエール」での話

「宝塚プルミエール」で、真風さんと芹香さんが、作品について話していました。
(毎回、舞台稽古の荒通しの後に「宝塚プルミエール」の撮影があるそうです、)

芹香: 「台本をもらってとにかく衝撃みたいな。これとこれが同じ作品の中に来るんだ。」
(幕開きは和物の日本のシーンで、スペインに行くと、世界がガラッと変わって、洋物のスペインの場面になります。音楽も和物からガラッと洋物に)

芹香: 「逆にお客さんに聞きたい!お客さんにどうですか、これは驚くのか、そんなでもないのか。」

キキちゃんのこの話を通して感じたのは、荒通しの舞台稽古が終わっても演じる側には「大丈夫なのだろうか?」と戸惑いが大きかったこと。

私は初日を観劇しましたが、「何なんだ、この世界観は!?」と驚きました。
しかし真風さん、キキちゃん、まどかちゃんをはじめ、宙組生の頑張りで楽しく見ました。

関西のファンは、受容範囲が比較的広く、変わった作品であっても、楽しむことをみつけて楽しもうとしますが、東京の方は辛辣な部分があります。
「果たして東京公演にもっていって大丈夫なのだろうか?」と内心心配しています。

また、宝塚大劇場では、団体などで「宝塚が初めて」のお客様も多いと思います。
その方々はこの作品を通して、「宝塚にどのような印象を抱かれたのだうか?」という思いもあります。

ただショー『アクアヴィーテ!!』が、スタイリッシュで見どころ満載の充実した作品なので、ショーで芝居の足りなさは補えるでしょう。

エル ハポンイスパニアのサムライ

慶長遣欧使節団として派遣された仙台藩士が主人公です。
・「真風涼帆のカッコ良さと苦悩の姿」を見たい。
・「マカロニウェスタン」をつくりたい。
・スペイン南部の町コリア・デル・リオに「サムライの末裔」を自認する「ハポン(日本)」姓の人々がいることを知らしめたい。

大野先生が、その3点に集約して自己実現のためにつくられた作品のように感じます。

主人公だけカッコ良い
新人公演を観ても、主演の蒲田治道(真風涼帆/ 風色日向)が特別カッコよく見えました。場面が変わるごとに立ち回りがあり、長身に映える特別な衣装が素敵です。
2番手のアレハンドロ(芹香斗亜/亜音 有星)は、髭面で髪形もそんなにイケていません。

「慶長遣欧使節団に何故マカロニウェスタン?」という思いが強いです。

大劇場作品は、番手に関係なく沢山の役者に活躍の場を与え、カッコ良い立ち回りを満載すれば、スターを観に来ているファンは喜ぶでしょう。そういう需要には十分こたえた作品です。
しかし、それぞれの背景を抱えた登場人物が、最後5分で、いとも簡単にハッピーエンドとなって、最高のご都合主義作品。
舞台上のみんなが笑顔で終わるので、「それでいいか」と思えるのも、宙組のチームワークの良さがなせる業だと思います。

歌劇誌の作品の座談会では、アレハンドロの役づくりはキキちゃんに丸投げ状態のようなことを大野先生が話されていました。
本当にそうだったようで、キキちゃんの芝居のセンスによって、笑いもとりながら健闘していて、この作品は成り立っていたと思います。
新人公演を観て、アレハンドロ役を演じた亜音有星くんは、芝居のセンスがある子ですが、流石にこの役は荷が重く、キキちゃんの巧みさを感じました。

大野先生は1年前に、同じ宙組で日本もののショーを作・演出されました。
ショー作品は「魅せることが中心」ですが、今回の芝居も同じような感覚の延長でつくられていたように思います。
こういう作風を「エンターテイメント性の高い作品」と評すようですが、こういう作風がこれから喜ばれていくのでしょうか?

2019年の宝塚大劇場作品

 1.星  『霧深きエルベのほとり』
作/菊田 一夫
潤色・演出/上田 久美子
2.花   『CASANOVA』
作・演出/生田 大和  
作曲/ドーヴ・アチア
 3.月  『夢現無双』
原作 吉川英治「宮本武蔵」
脚本・演出/齋藤 吉正
 4.宙  『オーシャンズ11』
脚本・演出/小池 修一郎
 5.雪  『壬生義士伝』
原作 浅田次郎
脚本・演出/石田 昌也
 6.星 トップ 退団公演
『GOD OF STARS-食聖-』
作・演出/小柳 奈穂子
 7.花  トップ 退団公演
『A Fairy Tale青い薔薇の精』
作・演出/植田 景子
 8.月  『I AM FROM AUSTRIA』
ウィーン劇場協会
潤色・演出/齋藤 吉正
 9.宙  『イスパニアのサムライ-』
作・演出/大野 拓史

1作目の『霧深きエルベのほとり』は、菊田 一夫氏の作品で、上田 久美子先生が潤色・演出され、芝居を深く味わい堪能させてくれました。

しかし2作目『CASANOVA』は、ドーヴ・アチア氏の曲を楽しみながら、芝居というより「明日海りお」のカッコ良さを堪能する作品でした。
ディズニー風で、先ほども書きましたが、こういう作風を「エンターテイメント性の高い作品」と称するのでしょう。
「明日海りお」という華のある唯一無二のスター性をもつスターだからこそ、成立した作品だと思います。

3作目の『夢現無双』は時代劇に疎い私は、あまり楽しめませんでした。
齋藤吉正先生が、憧れの吉川英治氏の「宮本武蔵」を舞台化する夢を実現された作品。
多くの役がふられていたことは良かったと思いますが、登場人物について知識の無い私は、理解しないまま、話が流れていきました。
話の盛り上がりがなく、ただ筋を追って見せていくことも、「エンターテイメント性の高い作品」というのかな?と感じました。

4作目の『オーシャンズ11』は、まさしくエンターテイメント性の高い充実した作品で、とても楽しめました。

5作目の『壬生義士伝』は、小説の部分は望海さんの芝居力によって最高に感動を与えてもらえましたが、鹿鳴館チームのストーリーテラーたちの存在感がありすぎた部分などは少々疑問。
でも80名ほどの組子全員に活躍の場をふるためには、仕方ないのでしょう。

6作、7作の星組、花組の女性演出家のトップスター退団公演は、私はとても楽しめました。

「エンターテイメント性の高い作品」が、これから宝塚の主流になっていくのかなと思っていたら、星組バウホールの『龍の宮物語』が大好評でした。
やはりお芝居を味わうことを、ファンは求めているのだな、と思いました。

指田珠子先生について
指田先生は10年前の学生時代に、演劇の脚本・演出をされていたようです。

(自称)肺呼吸が出来ない引きこもり青年
(自称)八百屋お七にとりつかれた少女

地下に広がる酒場という名の海にたゆたう其の青年、流れ着く其の少女
海に佇む、女と船長
其処に上がり込む、変な社長と秘書マリちゃん

気が付いたら火ぃ付けた
でも火がついたら、気が付いた・・・
脚本・演出・チラシ 指田珠子 引用:「☆★もうすぐ本番★☆」 

当時の作風と『龍の宮物語』に重なるところを感じます。

バウホールのような、小さい空間では、『龍の宮物語』のような繊細なお芝居は空気を感じ取りながら楽しめますが、大劇場のような広い空間には、多分適さないでしょう。
バウホールのデビュー作が良かったからと言って、すぐに大劇場作品をとはならないでしょうが、芝居にグングンと観客を惹きこんでいかれる手腕に、今後を期待したいです。、

『霧深きエルベのほとり』は56年前の作品ですが、大劇場で本格的なお芝居として、楽しむことができました。
女性向きの丁寧な脚本が書けるのは、やはり女性演出家かなぁと思います。
(『霧深きエルベのほとり』の脚本は、菊田一夫氏でしたが、潤色演出の上田先生の手腕が発揮されていました。)

女性演出家のトップ退団公演

トップスターの退団公演のお芝居は、トップスターの意向が汲み取られることもあるようです。
全ての人が「トップスターの指名」ではないでしょうが、間近の4作品は女性演出家が担当されました。
来年の雪組については、まだ発表がありませんが、退団公演だと予想されています。
「望海さんが上田先生の作品で最後を」と希望されたのかもしれません。

★雪組 早霧せいな
『幕末太陽傳』
小柳奈穂子

★宙組 朝夏まなと
『神々の土地〜ロマノフたちの黄昏〜』 
上田久美子 

★星組 紅ゆずる
『GOD OF STARS-食聖-』 
小柳奈穂子

★花組 明日海りお
『A Fairy Tale青い薔薇の精』 
植田景子

★雪組 望海風斗(予想)
『f f f -フォルティッシッシモ-』
上田久美子

時代の流れとして、本を読まない人が増えていっているようです。そういうあたりから、「エンターテイメント性の高い作品」も好まれる傾向にあるのでしょう。
しかし今年『龍の宮物語』や『霧深きエルベのほとり』が評判が良かったことは、味わえる芝居を求めている人も多いということです。

どんな時代でも、クオリティの高い芝居は喜ばれると思います。
宝塚の生徒さんたちは、クオリティの高い脚本を与えられれば、それを魅せる力をもっています。
「エンターテイメント性の高い作品」という言葉に流されず、クオリティの高い芝居を魅せられる「演出家」に活躍して欲しいと思っています。
それは、女性演出家の活躍ということになるのかもしれません。

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