『サロメ奇譚』を観て上田久美子氏を思う
こんにちは、くららです。
昨日、朝海ひかるさん主演の『サロメ奇譚』を観劇しました。
名作「サロメ」が現代の実業家一家に置き換えて描かれた95分間の新感覚悲喜劇でした。
思ったほどドロドロしていませんでした。まさに悲喜劇!
朝海さんの「七つのヴェールの踊り」と最後の解放された力強いダンスが素晴らしかったです。

今年の1月の望海風斗さんが出演された『INTO THE WOODS』では、元トップスターなのに朝海さん湖月わたるさんが、あまりにもモッタイナイ使われ方をされていて残念だったので、面目躍如といった感じでした。

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朝海ひかるさんの芸能生活30周年の記念公演

朝海ひかるさんが。芸能生活30周年の記念公演に、何が面白いかと、演出の稲葉賀恵さん(文学座)にお願いした所、その中の一番最初にあがっていたのが「サロメ」だったそうです。

演出の稲葉さんは、宝塚時代の朝海ひかるさんをご存知で、

男役でありながら、時に少女のように可憐。無垢な瞳をのぞかせたと思ったら次の瞬間妖艶な姿に様変わりする。「耽美」という言葉がとても似合う方でした。数年後こうして一緒にクリエイションする機会を頂き、まず私が提案したのが「サロメ」でした。無垢でありながら残酷で、少女でありながら妖艶。複雑怪奇なあのサロメという役を朝海さんならどう演じるのか、誰よりも私が観客席で観てみたかったのです。引用ステージナタリー

脚本は、ペヤンヌマキ(溝口真希子)さんです。
演劇ユニット・ブス会*主宰者で、劇作家、脚本家、演出家、映画監督、AV監督もされている奇才な方。

サロメといえば、生首を持ってほほえむ女性の絵が有名ですが、新約聖書をもとに19世紀に書かれたオスカー・ワイルドの戯曲をもとに、ペヤンヌマキさんの翻案・脚本で、現代の実業家家庭を舞台としてウィットに富んだ会話で紡がれていました。

「豪邸のなか」というセットと照明が、大人な感じの不思議な世界観を創っていました。
特に照明に拘っていて、ヨカナーンの後光や一筋の光など、とても効果的でした。

サロメは殻に閉じこもった狭い世界に生きている孤独な女性です。
信じれる人間が誰もいないところに、救いの神というし信じれる人が現れて、驚くほど幸せ感に満たされます。
しかし彼への執着心が深いので、愛情を否定された時の反動が異常な執着になり異常な愛になり、凄まじいことに…

無垢でありながら残酷で、少女でありながら妖艶な複雑怪奇なサロメを芸歴30年の経験値をもつ朝海さんが見事に演じられました。

演出の稲葉さんが、朝海さんの記念公演にサロメを選ばれたことは、本当に素晴らしい選択であり、凄い手腕のある演出家だなと思いました。
稲葉さんは文学座に所属し2013年に初演出以降、多くの劇団内外作品で演出を担当されています。

朝海さんの持ち味が100%活かされている面白い作品に仕上がっていると思いました。

上田先生退団ショックの中にある私は、『サロメ奇譚』を観劇して、上田先生はこういう演劇をつくっていきたいと思っていらっしゃるのかも?と勝手に妄想しました。

多分脚本のペヤンヌマキさんも演出の稲葉さんも、上田先生に近しいご年齢だと思います。

非常に幅広い出自の他のキャストたち

預言者ヨカナーン……牧島輝

2.5次元ミュージカルで脚光を浴びている超イケメン。
台詞劇、朗読劇にも活躍の幅を広げている期待の若手俳優さん。
声がのびやかで、どこか儚げな浮世離れ感あふれる演技が良かったです。
この役にピッタリだと思いました。

サロメの母へロディア……松永玲子さん

ナイロン100℃に所属。
落語家としても活動されていて、外部出演では超人的なコメディエンヌとしてご活躍。
表情が豊かでスゴイ存在感がありました。大阪ご出身、関西人らしさが漂っていました。

大千秋楽だったのでカーテンコールが続いていた時に、両手で大きくバッテン印をつくって、「これから帰るねん」と一言。
みなさんその日のうちに、東京にお帰りになるご予定だったよう。
拍手は鳴り終わって、カーテンコールはその回で終了しました。
こういう時大阪弁には威力があります。

サロメの義父のヘロデ……ベンガルさん

成り上がりの下品な実業家。
還暦の祝いということで、「ユダヤの王」のような赤い衣裳をつけていました。
義娘のサロメに対しても情欲を抱いているので、サロメにとても嫌悪されています。

ヘロデに付き従う南部……東谷英人

「DULL-COLORED POP」所属、多くの舞台で活躍中。
全体の語り部を兼ねていて、東谷さんの存在で話がわかりやすく伝わってきました。

奈良……伊藤壮太郎
軽薄で明るい存在感がアクセントになっていました。

吉田、金城……萩原亮介
文学座の方、お芝居が深いなと思いました。

宝塚出身の朝海さんをはじめ、幅広い演劇の分野から集まってきた7人の出演者たちによって、様々な化学反応が起きて、話が深められていたと思います。

今回は「朝海さんの記念公演」ということで、より自由度が高かったのだと思いますが、こうして幅広い分野から役者さんを集めて、一つの舞台をつくり上げていくことは、つくる側にとっても、大変面白いのではないかな?と思いました。

様々な制約の中で創り上げる宝塚の作品
宝塚では、本公演では組子全員が出演者で、役の振り分けはトップスター、トップ娘役、路線スター、別格スターとそれぞれに比重を考えながらしなければなりません。
上演時間も、90分前後と決まっています。
他にも様々な制約があると思います。

そのため制約が少ない別箱公演では、多くの傑作がうまれますが、本公演では傑作がうまれにくいです。

そんな中でも上田先生は、話に破綻が無く、緻密で繊細で細部まで作り込んで、生徒の個性を最大限に生かすオリジナル作品を次々と作っていらっしゃいました。

上田先生は、2階席から見える光景にも拘られていたので、上田作品は1階席だけでなく、2階席からも観ることを楽しみにしていました。
そこまで配慮されている先生はいらっしゃいません。

1作品つくり上げることは、どれだけ大変なことであったかと思います。

それだけ配慮して作品をつくりあげることは、先生にとって面白い作業では無かったかもしれません。

本当に自分の志す面白い演劇を創りたいと思ったら、外部の『サロメ奇譚』のような自由度がある作品に携わることかもしれないなと私は感じました。(あくまでも私の主観です)

上田久美子先生の送る言葉について

昨年の「歌劇8月号」の“珠城りょうを送る言葉”を読んで、「もしかして宝塚を辞められる?」という予感が無きにしもあらずでした。でもそんな残念なことは無いので、その思いは打ち消したい気持ちでいっぱいでした。

その送る言葉を読み返してみました。

『月雲の皇子』『BADDY-悪党は月からやって来る-』『桜嵐記』と、三作も主演作を手掛ける縁があった。いずれもお互いにとって節目となる時期の出会いだった。それは入団時期などのタイミングの偶然によるもので、(省略)彼女が宝塚最後となる楠木正行役を演じる姿を見て、やはり不思議な運命を感じるに至りつつある

節目となる出会いは「タイミングの偶然」と思っていたものの、『桜嵐記』を上演していくうちに、不思議な運命を感じるに至りつつあると現在進行形で書かれているのは、珠城さんの退団という節目をご自分の節目に重ね合わせる心境になってこられているということかも、と感じました。

strong>『月雲の皇子』
・珠城さんの初主演
・上田先生のデビュー

『桜嵐記』
・珠城さんの退団公演
・上田先生ご自身の最後の公演と考えつつあった?

先ほどご紹介した上田先生の“珠城りょうを送る言葉”の最後は下記のように結ばれていました。

たまちゃん、本当にありがとう。
そして長い間、お疲れ様!お互い、よく頑張ったよね!!

以前に永久輝せあさんが「上田先生の頭の中を見てみたい」と話されていたと思います。
本当に細かく繊細に配慮して出来上がる先生の頭の中は、凡人の頭の100倍以上回転しているのでは?と思います。
そのため大変な労力を使っていらしたことでしょう。

その回転を10分の1にしても、先生の作品は面白いと思いますが、先生はハードルを下げることは出来ないのでしょう。
「桜嵐記」で、「お互い、よく頑張ったよね!!」と終わりにしても良いと思われたのかもしれません。

上田先生ご自身が、「終わり」と節目を刻まれたので、仕方がありません。
先生の更なるご活躍を祈っています!
少しでもはやく、また先生の作品に再会できますように。

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