逆転の発想が面白い!番手も逆?
『鎌足−夢のまほろば、大和し美し−』は、紅ゆずるプレサヨナラ公演です。
紅ファンですが、この作品に大きな期待はしていませんでした。
『GOD OF STARS-食聖-』
の衝撃度1000%のポスターの公演チケット入手に思いが向かっていたり、「全国ツアー」の幕が先に開いたので、そちらに思いが…

「話題」と「話題」にはさまれて、ポスターも地味目だった紅ゆずる主演の『鎌足』でしたが、観劇してみると、実に話の展開が面白くて、ジーンとする感動があり、紅ファンとしては「紅ゆずるの魅力」が詰め込まれた、嬉しいビックリ作品でした。チケットを増やしたい!

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逆転の発想が面白い

紅ゆずる・鎌足について
「鎌足」というと、腹黒い影の存在というイメージですが、鎌足自身に光を当ててアプローチした作品は、実に人間味のある紅・鎌足でした。
前回の大劇場「霧深きエルベのほとりに」を経て、紅さんの心情描写はさらに巧みになっています。
15歳の気の弱いヘタレな少年から、杖をついた老齢期までを、自然に味わい深く奥深く見せてくれました。
紅さんの演技は、くせがあると言われますが、実際に舞台で見ると気負っていなくて、ナチュラルです。

「宝塚の男役は、いかにかっこよく魅せるかが男役道」でしょうが、紅ゆずるのお芝居での男役道は、いかに役に徹して、観客に心情を伝え、心に響かせるかだと思います。
男役としても活き活きとしている場面もいろいろとありますが、男役としてカッコよい部分は少なく、情けない、愚かな、表に見せたくない部分の方が多く、「人間鎌足」を魅せてくれます。
杖をついている老齢期まで、特に枯れてきたイケオジ姿も魅力的で、ファンにはどの姿も心に焼けつけておきたいものでした。

紅さんお得意のコメディ部分が封印されているわけではありません。
与志古との束の間の新婚ラブラブシーンのやり取りがコント的で、普通に演じていても、「フフフ」と笑ってしまいます。
そこでしっかり、次の大劇場の公演の食聖ネタも入れてきて、流石!

コメディというと、2幕冒頭で「大化」と元号を発表するところで、蘇我倉山田石川麻呂役の美稀千種さんが「令和」と始めにとぼけて見せる所が絶妙な味がありました。
他のシーンでも、オーバーリアクションで、小心ぶりを魅せてくれて、笑いをとっていました。

華形ひかる・蘇我入鹿について
鎌足と対照的なのが華形・蘇我入鹿です。
「蘇我入鹿」も「大悪人」のようにとらえられています、今回の舞台では、聡明で理想に燃える若者だったところ、いつのまにか独裁者になってしまった「ヒーロー」のように描かれています。
華形ひかるさんは、今は専科生として脇を締めらる役を担っておられますが、花組時代はバリバリの路線男役さんでした。
今回1幕では、華形さんが超二枚目男役として見事に演じておられ、まるで主役のようで、真ん中が似合うスターオーラが光っっていました。

華形さんが1幕は主演のような輝きを魅せられたため、「退団が近いのでは?」と心配するファンもいらっしゃいますが、生田先生の逆転の発想の流れの配役と信じたいです。まだまだ活躍していただきたい。

2番手?中大兄皇子(瀬央ゆりあ)
宝塚では公演内容が発表される時に、主な配役は波線上に位置されます。今回「中大兄皇子(瀬央ゆりあ)」がトップ二人と共に波線上にあったので、せおっちが2番手だと思いましたが、今回は中大兄皇子役だったので、1幕終盤からの出演でした。
しかも本来スポットが当たらない人物側から描くていう主旨でつくられているので、中大兄皇子の出番は蘇我入鹿に比べて、少なく描かれ方も浅かったです。
この番手の逆転現象も、逆転の発想の一つでしょうか。「番手など関係ない」かな。

皇極天皇・有沙瞳について
[皇極天皇(有沙瞳)」という配役発表があった時に、「路線娘役がそんな高齢の役?」と「はてな」がとびましたが、今回の生田先生の脚本は時系列・年齢は無視されています。

皇極天皇と入鹿は、史実によるとかなりの年齢差があったと思われますが、二人は恋に落ち、音と照明によってさらに熱さが増すラブシーンがありました。一幕の見どころかな。
1幕の終わり、入鹿征伐で入鹿が倒れたシーンでは、背を向ける残酷な女帝を演じますが、その後ろ姿から切ない心情が伝わってきました。

有沙瞳ちゃんは、身分の高い女帝の高貴さが漂い、2幕は女帝としての貫禄と凄みを見事に見せて流石でした。
年齢を感じさせる化粧は全くしていませんでしたが、2幕で「中大兄皇子(瀬央ゆりあ)」の母親役が不自然でなかったのは、芝居の巧みさだと思います。
化粧の美しさは元雪組生の本領発揮。あでやかな美しさでした。
どんな役も見事にこなす実力派娘役の有沙瞳ちゃんは、さらに活躍していかれると思います。

鎌足・与志古の関係性が紅ゆずる・綺咲愛里コンビならでは

この舞台では、ヒロイン与志古の存在が鎌足の心の支えになっているということが始めから終わりまで真髄にあります。
プレお披露目公演「オームシャンティオーム」から、この作品まで、どの作品も、二人の愛のストーリーが展開してきました。
実はトップ就任前から、星組のショーや外箱公演「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」でも、二人はラブラブ関係を演じていました。

『紅ゆずる・綺咲愛里コンビ』の相性の良さは特別で、舞台の上での紅さんの愛里ちゃんへの視線や仕草などからも、その愛情が感じられます。
良い関係性を魅せ同時退団するのも、歴代星組の伝統でしょうか。ここ20年くらいしか知りませんが。
鎌足・与志古の関係性は、今まで2人で寄り添い歩んできた終着点にぴったりだと思います。、

大劇場の退団公演『GOD OF STARS-食聖-』は、多分二人の純愛を描く内容にはならないと思うので、プレサヨナラ公演で、一生を通しての二人の愛を描いて終わりにできて、よかったと思います。

車持与志古娘(綺咲愛里)
少女時代はやわらかい可愛さにあふれていて、成長するにつれて、芯が強くなっていく女性の強さがしっかり演じられていました。
最後の老いてからの与志古の演技が情感があふれていて、紅さんと同じように、愛里ちゃんも1作ずつ成長を重ねてこられたのだと思いました。
娘役はトップ就任時期がはやいので、一番のってきた頃に退団になってしまうのは、いつも残念だと思いますが、仕方ないことです。

中大兄皇子(瀬央ゆりあ)
従来なら「中大兄皇」は大きな役であるのに、今回は逆転の発想なので、出番が少ないのは仕方ないかも。
日本物のお化粧がよく似合うイケメンで、高貴な雰囲気は漂っていました。
後半の冷酷無慈悲なシーンは、わざと抑えていたのかな?酷いことを言いながらも底にやさしさを感じました。
ラスト近くの鎌足たちとの目での対話は切なくて伝わってきました。

安見児(星蘭ひとみ)
ひとみちゃんのお人形さんのような美貌と硬質な声が、心の育っていない安見児にぴったりで説得力がありました。
歌わなければ『際だつ美貌とオーラ』は、圧倒的な存在感をみせてくれます。
その他大勢で踊っている時に、後ろの方にいても、お顔の美しさは際立っていました。
屈託のない笑顔に、憎めない、応援したくなるものをもっている人だなと思います。

安見児(星蘭ひとみ)は、「主な配役」に入っていないため、プログラムの写真は、「宝塚おとめ」のものが使われていました。
2幕では重要な役どころですが、組内の編成上「主な配役」に入らないのは仕方ないのでしょう。
歌が苦手であっても、星蘭ひとみちゃんの美貌と存在感は、華やかな星組に大切だと思います。

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『S7天智帝』の歌舞伎風のシーンが新鮮

鎌足が与志古を取り戻しに行く場面が歌舞伎風に「藤間勘十郎」振付で演じられていました。
歌舞伎の「見得を切る」ポーズを紅さんがとられていました。
美しい表情を心がけているタカラジェンヌには、「見得を切る」表情は不釣り合いな気もしますが、紅さんは堂々とされていました。
紅さんは歌舞伎がお好きで、良くご覧になっているそうなので、そういう勝手がわかっていてやりやすかったのかもしれません。

初日の幕が上がって何回かは、ファンが「歌舞伎風」の掛け声をしていたようですが、慣れやタイミングもあるので、それはすぐに無くなったようです。
盛り上がりのために掛け声が必要なら、下級生がお稽古してする方が良かったのでは?
3月に東京に行った時に初めて歌舞伎座で歌舞伎を見ましたが、105年の宝塚とは全く違う400年以上続く歌舞伎の伝統を感じました。

中大兄の王子と鎌足の出会いの場となった「蹴鞠の出会い」もアイデアが楽しかったです。

紅ゆずるのポスターの化粧の美しさの秘密

今回の和化粧が取り分け美しいので、紅さんは歌舞伎役者さんと交流があるので、そちらから指導を受けたのかと思っていましたが、「NOW ON STAGE」で、華形さんが化粧の監修をされたと話されていました。
花組で培ってきた和化粧の経験から、凛々しい聡明な鎌足をイメージして、アドバイスをされたそうです。

公演プログラムの最初のページに、紅・鎌足の儚げな愁いが漂う端正な横顔の写真がありました。
あまりに美しくて、しばらく見とれてしまいました。

二人のストーリーテラーがいるから全てが納得できる

アプローチの視点を変えたとは言え、史実のとらえ方、時系列は、明らかにおかしく、フィクションの部分も多いです。
それを納得させてくれるのが、二人のストーリーテラーの存在。
ストーリーテラー・僧旻(一樹千尋)
(唐より帰朝した学問僧で鎌足の師)
出てくるだけで、場が引き締まり、話す内容が突飛なものであっても、ひろさんが話されると説得力があります。
太い声での歌も迫力があり、専科の実力者の存在は舞台に厚みを増してくれます。
これが軽い若者が担当していたなら、客席側が「そんな訳ないでしょ」となってしまったでしよう。

ストーリーテラー・船史恵尺(天寿光希)
蘇我氏の下で歴史書の編纂にあたっている人物。
不気味で高慢、歴史の操り人。時空を行ったり来たりしている存在で、軽妙にあくどいことをサラッと話すのがスゴイです。

2人のストーリーテラーの掛け合いが絶妙で、

「歴史は勝者によって作られるもの」

このストーリーテラーの存在が無かったら、この舞台は雲の上のお芝居になっていたと思います。

生田大和先生の発想力とあてがきの脚本力がスゴイ

そしても紅ゆずるをはじめとして、役者がそろったから、心を揺さぶり後味の良い感動作品になったのだと思います。
「日本物」というと、どちらかというと敬遠されがちですが、「鎌足」のようなこういう作品はなかなか宝塚では味わえないので、観なくちゃ損!だと思います。

前作「霧深きエルベのほとりに」と同じような、宝塚の名作の一つとなり、紅ゆずるの代表作として刻まれるのでは?
今日も書いていたら、もの凄く長文になってしまいました。
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